今回は番外編として、a same の用法を取り上げます。基本形容詞・副詞辞典では same と不定冠詞の共起を一切認めていません。しかし、現代語法上、どうなのかは少し気になる点です。本日はこの点を検証したいと思います。
本来意味の異なる same を identical と同一に捉える人がいるため、この手の表現が生まれてきたと Jay は考えます。ちなみにジーニアスでは same を下記のように定義しています。
「別々のものであるが, 種類・外観・量などの点で異なっていないという意味;identical は同一物であること.」
ネットで検索すると、「the same book と a same book は異なる」と説明しているサイトもあるようですが、これは明らかに same が持つ広義の意味を十分理解していないために起こるものではないでしょうか。
【検証】
(1) Google で a same を用例検索すると 3,420,000 件で、the same は 830,000,000 件ヒットします。ヒット件数だけ見ると結構多そうに見えますが、相対的な比率を見ると、a same:the same は、約 4:1000 なので、正用法として確立しているかはやや疑問です。少なくともノンネイティブは一般用法として安易な使用は避けるべきでしょう。
(2) 特許では a same が多用される傾向にあるようで、Google Patent Search で検索をかけてみました。
・Data series of the first and second recording areas are modulated with a same modulation code, the first and second sectors have a same data capacity, ... (US Pat. 5850382 - Filed Apr 9, 1997 - Matsushita Electrical Industrial Co., Ltd.)
特許など極めて高い厳密性が求められる分野では「同一」か否かは非常に重要なので、identical との誤解を避けるために a + same が多用される傾向にあると思います。しかし、上記でも触れましたが、基本的に same には very similar などの意味もあるわけですから、一般用法まで拡張するのはあまり好ましいとは思えません。よって原文にある場合は仕方がないとしても、一般用法として英訳で使用するのは避けた方が良いと思います。
次回はまた副詞 too の用法に戻ります。